ピヨた達のお話とはまったく毛色が違うのですが
唐突に、初めてショートショートを執筆してみました。
読んでいただけたら、感想をいただけたらとっても嬉しいです。


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「こんな簡単な仕事もできなくて、社会人失格、いや人間失格だ!」
社会的に減少傾向にあるパワハラ発言を惜しげもなく投げつけてくる上司。今日は少しウィットに富ませたな、と、すみませんと口を動かしながら考えた。

昔から勉強はできなかった。それでも、困ったときはニコニコ笑っていれば大体どうにかなってきた。
社会人になってブラック企業に入社してからは、予想通りミスを連発した。ニコニコ笑っていると、真面目に仕事しろと怒られた。人生で初めて自分の無能さと向き合わなければならず、最初は落ち込んだ。
一年ほど悩み、電車に飛び込んで楽になろうと決めた朝だった。突然自分の人生がゲームのように感じた。そうか、僕は村人Aだったんだ。
村人Aが電車に飛び込んで、ゲームシナリオに影響を与えるのはおこがましい。そう思って飛び込むのはやめた。僕が村人Aを動かし始めてからは毎日が平穏になった。
上司Aが僕に怒るのは確定イベントだから回避できない。上司Aも、毎回毎回イベント発生させる役回りなんて大変だな。少し同情してしまう。

今月も無事会社から給料が振り込まれた。どんな仕事ぶりでもなんとか暮らしていけるだけのお金が振り込まれるのはありがたい。冒険に出なくても暮らせるのだからこの世は神ゲーだ。この神ゲーにはもう一つの神要素がある。それは人間モードに戻れること。

僕は毎週末、村人Aではなくて人間として過ごす。近所のラーメン屋に並び、動画配信サービスで泣き、話題の映画を映画館で見て胸を熱くする。たまに学生時代の友人と会う。ニコニコ笑って話を聞いていると、10人中9人は、僕と同じ村人Aを演じているようだった。

人生って最高だ。僕は今日も村人Aを演じる。誰か別の人間が楽しく過ごせるための毎日を、僕ら村人Aが支えている。
僕が村人Aとして過ごす時間、人間失格だっていい。僕が人間として過ごす時間、僕は人間合格と自負してる。